私たちWeb製作者の多くはクライアントにリニューアルを依頼されると、すぐに制作に取り掛かろうとしてしまいます。しかし、必ずしもリニューアルが最善の策ではない場合もあり、専門家であるWeb制作者にはクライアントに正しい助言を行う義務があります。
多くの企業にはWebサイトを定期的にリニューアルする文化が存在します。それは大抵何かに大きな不満を感じた経営者による「より先進的なWebサイト」の要求から始まります。多くの予算と時間を費やし、製作会社を選定し、古いWebサイトを完全に捨て去り、新しいものに置き換えます。しばらくは誰もが新しいWebサイトを評価しますが、コンテンツの更新が滞り、新たなテクノロジーが次々に登場し、Webサイトはまた古くなります。数年後、劣化したWebサイトがまた経営者の目に止まり、リニューアルが始まるのです。
次にリニューアルの依頼を受けたら、すぐに制作には取り掛からず、その理由や結果についてクライアントとしっかり話をしましょう。リニューアルではおそらく全ての要素を置き換えられ、問題なく機能している部分も作りなおされます。変更する要素が多ければ、有効性の検証も困難になります。ユーザーが慣れていた仕様が変更されれば、ネガティブな体験も生まれかねません。もちろん多額の投資を必要とするため、定期的に繰り返すことはビジネス上健全ではなく、いくら高額なリニューアルを行なってもコンテンツの更新や技術的なメンテナンスを怠れば直ぐに劣化してしまうのです。
Webサイトをリニューアルせずに継続的に改善していく『リアラインメント』という考え方があります。Webサイトはビジネス課題の解決や、目標の達成に向けて、継続的な改善施策を施せば数年おきに作り直す必要は無いのです。この考え方に賛同し、継続的なWebサイトのPDCAサイクルを推奨する制作会社は多く存在します。しかし、リアラインメントはWebサイトの継続的な改善を推奨するだけでなく、「完成したWebサイトを納品する」という考え方を否定します。Webサイトには完成は無く、ユーザーの行動から常に学び、より良い解決法をデザインに反映し続けなければならないのです。
Webサイトのデザインを継続的にテストし、改善し続けることには定期的なリニューアルを行うことよりもたくさんのメリットが存在します。しかし、全てのプロジェクトでリアラインメントをリニューアルに優先すべき、ということでもありません。
インフォスターでもWebサイトの継続的な改善を推奨していますが、今も多くのリニューアル案件に関わっています。Webサイトのデザインを大きく変えない場合も、大抵ゼロから作り直すことになります。その理由は元のWebサイトが長期的な開発を視野に入れずに制作されているからです。リニューアルを行う主な理由は継続的な改善が行えないことにあります。
時には繰り返される改善施策自体がリニューアルの理由になることもあります。多くの追加や変更が加えられたWebサイトにはユーザーインターフェースの矛盾が蓄積され、新たな設計が必要となります。これは設計やデザインだけでなく、コードにも同じことが言えます。つまり、どのようなWebサイトにも、いずれリニューアルは必要になるということです。大切なことはその時期を正しく見極めることができるかです。
Webサイトがデザインやコードの矛盾を抱えきれなくなると、そのパフォーマンスの低さや運用のストレスからリニューアルの必要性が明確になります。Webサイトをゼロから作り直すことで、コードや動線などを最適化し、ナビゲーションやサイト構造などの設計を抜本的に見直す事が可能になります。しかし、正当なリニューアルの理由はWebサイトの機能に関係するものばかりではありません。企業やブランドのビジネスに関連した外的要因も多く存在します。
マーケティング戦略やポジショニングの見直しなど、ビジネスの大きな改革はWebサイトの目的・目標を変えてしまいます。ビジネスモデルの変更、ブランドのリポジショニング、市場動向の大きな変化に伴い、Webサイトのデザインやコンテンツの大幅な見直しが行われるのは当然です。また、多くの企業やブランドにとって象徴的な役割を担うWebサイトはインターナル・ブランディングにも大きな影響を与えるため、組織に変化を意識させることも正当な理由になります。
「見た目が古く、気に入らない」というビジュアルデザインやコンテンツに対する主観的な意見ではなく、Webサイトがビジネスのニーズをサポートできなくなったという事実こそがリニューアルのサインです。しかし、急速な対応が必要で、リニューアルに十分な時間が無い場合はもちろん部分的な改善施策を行うべきです。リニューアルは多くの費用だけでなく、時間も必要とし、新しいWebサイトを待つことが大きなリスクや機会損失につながることもあります。
解決すべき課題によってWebサイトに加えるべき変更は異なります。簡単なテキストの変更で対応できるものもあれば、全面的なリニューアルが必要なものもあります。変更の規模やタイミングはビジネス課題に基づき、その後の継続的な改善施策を視野に入れなければなりません。私たちWeb製作者にはリニューアルの正しい時期を見極め、その後のリアラインメントを通じたWebサイトの成長を可能にする義務があるのです。